土曜日はちょっとした用事で秋葉原へ。
ちょうど昼どきだったので、少し足を延ばして上野広小路まで昼食に出かけたのでした。
ぼくのなかで上野広小路グルメと言えばまずはとんかつ。
ぼくはとんかつと言う料理が大好きなのですが、その原点とも言えるとんかつ屋さんが上野広小路の「井泉」。
亡くなったぼくの父親もとんかつが好きだったのですが、その父親が連れて行ってくれたのが「井泉」だったのです。
とんかつ自体の味わいもさることながら、下町の老舗情緒に溢れる店構え、店内の雰囲気、あれがいいんですよね。
そしてとんかつ好きの父親が良く言っていたのが、御徒町には「井泉」のほかに「蓬莱屋」と言うとんかつ屋があって、ちょっと高いんだけどそこのひれかつもウマいんだよな、と言うことでした。
そのことばがずっと印象に残っていて、「蓬莱屋」にもいつか行きたいいつか行きたいと思ってはいたのですが、上野広小路に来るとついつい足は「井泉」のほうに向かってしまって、結局ずっと行けずじまいだったのです。
そしてようやくこの日は意を決して「蓬莱屋」へ。
それにしてもどうですこの店構え。昭和の風景って感じがたまりません。
そう言えば映画監督の小津安二郎氏も「蓬莱屋」のファンだったそうですが、いかにも小津安二郎氏が好みそうな風景です。
暖簾をくぐり引き戸を開けるとそこはすぐ鉤の手になったカウンター席。こぢんまりした店内です。
13時過ぎですが土曜日のせいでしょうか、かなりの混み具合です。
お品書きはいたってシンプルで、ひれかつ(3,300円・税込)、一口かつ(3,300円・税込)、串かつ(2,200円・税込)、そして一口かつと串かつを御膳にした「東京物語御膳」(2,800円・税込)の4種類。
お品書きにロースかつが無いとんかつ屋さん、珍しいですよね。
なにせ初訪問ですから、やはり看板メニューから行くべきですよね。
「蓬莱屋」のとんかつは低温の油でゆっくり揚げていくタイプ。なので、注文してから少し待つことになります。
老舗のカウンターでのんびりととんかつの揚がりを待つのもなかなか乙な時間です。
待つこと20分くらいでしょうか、ついにひれかつとご対面。低温で揚げられていますが、いちど高温で衣に焼き色を付けていますので、思いのほかカラリとした衣です。
肉質自体はひれと言うこともありますが、主張が無く非常にあっさりとした味わいです。
ジューシーではありますが、豚肉ならではの力強さ、香りと言った点ではちょっと物足りなさを感じるかもしれません。
しかし、衣が薄づきであることも相まって、とんかつ自体の印象はとにかく軽やか。
かなりのご高齢のご夫妻もカウンターでひれかつを楽しんでいらっしゃいましたが、このひれかつなら確かに油の重さをまったく感じません。
そしてひとつ付け加えたいのがご飯と味噌汁のウマさ。
ご飯はひと粒ひと粒が立っていてぼく好みの炊き加減。
最近は炭水化物を減らしているのでお代わりはご法度と自分に言い聞かせているのですが、この日は禁を破ってお代わりを頂いてしまいました。
味噌汁も味噌の香りが良く実に上等。
とんかつに3,300円、高いと言えば高いのですが、老舗ならではの空気感、雰囲気も含めた値付けと捉えるならば納得感は有ります。
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・店名 蓬莱屋
・住所 東京都台東区上野3-28-5
・電話 03-3831-5783
・備考 特になし。
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この日は忘年会第1弾と言うことでグルメな友人たちとちょっと豪華なランチを食べに出かけたのでした。
麻布の実力派フレンチ「ラ・リューン」。
「銀座はち巻岡田の鮟鱇鍋を食べないと冬が来ない」と書いたのは直木賞作家で食通の山口瞳氏でしたが、ぼくの友人は「ラ・リューンのジビエを食べないと冬が来ない」と言います。
そう言えば前回「ラ・リューン」を訪問したのも冬でした。
ランチはmenuA(4,950円)とmenuB(7,700円)の2種類なのですが、この日はmenuBをベースとして、前菜にシェフのスペシャリテ、メインディッシュにジビエを入れて少しカスタマイズして頂きました。
前菜の前に「突出し」と紹介されたのがこちら。箸で頂きます。
わかさぎのフリット、イタリアのサラミ、ピクルスとパルミジャーノレッジャーノ。
これ、呑兵衛にはたまらないセット(笑)。
前菜のひと皿目は本来はmenuBには入っていない永田敬一郎シェフのスペシャリテ。
魚介と野菜、コンソメジュレと言うコンビネーションはほかのレストランでも見かけますが、こちらでは茄子を使っているところがユニークですね。
雲丹の濃厚な甘さと優しいカボチャの甘さ。そしてすっきりと味を引き締めるライムの酸味。
いつ頂いてもスペシャリテと呼ぶにふさわしい完成度に感心します。
次のひと皿目が本来はコースのひと皿目の前菜。
赤で統一された鮮やかな色彩に目を奪われるひと皿、艶やかなジュレに透けて見えるのは牡丹海老。
牡丹海老の持つ素材の甘さとビーツの淡い甘さ、そしてフランボワーズの華やかな香りのコンビネーションがユニーク。
可憐なビジュアルのひと皿の次は一転してクラシカルな趣の有るフォアグラのポワレ。
シードルビネガーの爽やかな酸味がフォアグラの重量感ある風味と栗の滋味深い甘さを引き立たせます。
そしてお待ちかねの肉料理。
menuBの本来の肉料理は岩手産の短角牛のポワレ。
そちらも捨てがたいのですが、本日はジビエに変更しました。
「ラ・リューンのジビエを食べないと冬が来ない」ですからね(笑)。
この日の蝦夷鹿のポワレには「シンタマ(芯玉)」と呼ばれるもも肉の部位が使われていました。
そして蝦夷鹿の上には牡蠣、ピエブルー(紫しめじ)、タルティーボと言うコンビネーション。
蝦夷鹿のシンタマはしっとりと繊細な食感でした。
味わいもあっさりすっきりとしたものなので、ジビエらしい力強さを期待すると肩すかしを喰らいますが、先入観なく頂くのであれば実に上品で洗練された味わいを楽しむことができます。
ソースは鹿肉には定番の、胡椒の風味を効かせたポワブラードですが、そこにはふんだんにトリュフが投入されていてリッチな風味を加えています。
充実したランチの最後を飾るデセールがこちら。
このモンブランが絶品でした。
正直、モンブランってそんなに好んで頂くガトーではないのです。栗のペーストがもそもそしていたり、甘さが重すぎたり、モンブラン全般にあまり洗練された印象を持っていなかったのがその理由です。
しかしこのモンブランの完成度には脱帽。
滑らかで栗の風味をしっかりと残しながらもスッキリとした甘さに抑えられたマロンペーストに、軽やかなメレンゲ。かように洗練されたモンブラン、初めて頂きました。
すばらしいコースに本日も大満足でした。
ひと皿ひと皿の料理から食材に対する深い洞察が感じられる点も「ラ・リューン」の美点でしょうか。
一例を挙げると、たとえば牡丹海老を使った前菜。
単にビジュアルのインパクトを狙って赤い素材を組み合せているのではなく、そこには同色系統の食材同士は相性が良いのではないか、と言う永田敬一郎シェフ独自のインサイトが込められているそうです。
確かな技術に裏付けられた芳醇な味わいが楽しめる麻布の佳店です。
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・店名 ラ・リューン
・住所 東京都港区東麻布2-26-16
・電話 03-3589-2005
・備考 麻布の良心。
・参考記事 2020年12月21日「東麻布 ラ・リューン」
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