凡人なので、霊感も無ければ第六感も持ち合わせていないのですが、まれにそれに近いことが起きると、なにかふしぎな感慨を覚えます。
昨日はメシ友と今年最後の夕飯を食べよう、と申し合わせて、有楽町のカフェに集合。
第一候補は銀座の新進気鋭の鮨屋「鮨 太一」。
しかし電話すると…残念なことに満席。残念過ぎ…。
「鮨 太一」もすっかり人気店になっちゃって…。
この「鮨 太一」の石川太一さん、食べに来たお客さんをみんなファンにしてしまう、どうにかしてこのお店を応援したい!って思わせちゃう魅力を持った方。
まあ、ぼくたちが応援するまでもなく、お客さんの思いはみんな同じだったようで、こうやって人気店になっていくのはめでたいことではあります。
しかし。さてどうしたことか?
「じゃあさ、『鮨つかさ』はどうよ?」
「うーん。いいんだけど、もう少し安いトコで」
「じゃあ鮨から離れて…。昔、冬に鹿をたらふく食べた原宿のフレンチあったでしょ?『ラルテミス』。あそこは?」
「あー、いいんじゃない」
ということで、夕飯は「ブラッスリー・ラルテミス」に決定。
実は、前回鹿を食べに行ったのは2008年の11月28日。2010年12月28日、実に25ヶ月ぶりの訪問です。
なぜこんなに間があいてしまったか?
料理が良くなかったから?
いえ、その逆で、その当時、まだ「ラルテミス・ペティアント」と名乗り、ブラッスリーではなく、普通のフレンチレストランとして営業していた頃の記憶では、実に堂々と力強く、洗練と野趣のすばらしいバランスの料理に感銘を受けたものです。そして、お値段も5,000円程度と都心としては充分にコストパフォーマンスに優れていたのです。
シェフの中田雄介さんは名店中の名店、「ラ・ブランシュ」で修行したという実力派。そう言えば東麻布の「ラ・リューン」の永田シェフも「ラ・ブランシュ」の出身。「ラ・ブランシュ」一派は、本格派のシェフが多いですね。
でもこの中田シェフ、とても気さくな方で、2008年の冬に訪問したときは、フランス人(と思われる)サービススタッフに、鹿が食いたい。腹ぺこなんだ。鹿をすごいボリュームで持ってきてほしい。と無理難題ふっかけたら、厨房から中田シェフがわざわざ顔を見せてくれて「どれくらい召し上がれます?普通は100gくらいなんですけど、倍の200gくらいいってみます?」と言うので、200gの鹿に舌鼓を打ったということがありました。
あのときの鹿はウマかったなあ。
しかし、本格的なレストランが意外に少ないこの原宿界隈、しかも駅から歩いて10分程度というやや微妙な距離(実はぼくは原宿駅からこのお店へのアプローチが好きだったんだけど)、集客には苦労していたのかもしれません。
その証拠に、この価格、この料理なのに、いつも予約は取りやすかったんです。
そしていつしか「ブラッスリー・ラルテミス」と名前を変え、もう少し気軽なお店として再スタートしたのですが、元来酒を飲めないぼくはブラッスリーという業態にはさほど興味が無く、そんなわけで足が遠のいてしまったというわけです。
しかし、この夜、なかなか賑わっている店内に通されメニューを見ると。おお、このシェフのスペシャリテ「タスマニア産サーモンの瞬間燻製 季節の野菜と温泉卵添え」はもちろん、昔の料理がほとんど網羅されているではありませんか。
なんだ、こういうことなら、敬遠せずもっと行けば良かった…。
この夜はいつもより奮発してシェフのお任せコース(7,350円)をチョイス。メインに鴨を食べたい、とだけリクエストしてあとはシェフのおすすめで。
・アミューズ フォアグラと林檎を乗せたバゲット
・前菜 タスマニア産サーモンの瞬間燻製 季節の野菜と温泉卵添え
・魚料理 甘鯛の鱗焼き 南仏風スープ仕立て
・スープ 牛蒡のスープ フォアグラのポワレ添え
・肉料理 仔鴨のヘーゼルナッツ焼き
・デセール ヌガーグラッセ
・コーヒー、お茶菓子
前菜は完璧。スペシャリテというからには当たり前かもしれませんが、いつ食べてもおいしい、ウマさ鉄板ですね。でもウマ過ぎるといつもこれを選んでしまうというデメリットもあるんだけど。昔アラカルトでオーダーしたときは、とても前菜とは思えない大ボリュームでビックリした記憶があるのですが、今回はコースの中の一品と言うことで、ポーションは少し抑えめ。
甘鯛はこの寒い夜にピッタリの熱すぎるくらいの温度でサーブされました。皮目はパリッと。身はスープの旨味を吸って、そしてスープは甘鯛の旨さが抽出されていてどちらも滋味深い味わい。
仔鴨は以前にも食べたことがあるのですが、こちらも人気のメニューということで、満足な一皿。少し身が固かったのは素材の特性によるものかなあ?でも充分に鴨の旨味が閉じ込められた肉は食べ応えがあります。
デセールも見た目こそ流麗ではありませんが、さまざまなドライフルーツが渾然一体となって食事の締めくくりとして満足感をアップさせてくれました。
お店は繁盛しているようですが、ブラッスリーという業態ゆえ、大声で会話するもの、席を立って動き回る客、そんな雰囲気と、揺るぎない正統派の料理がどうにもちぐはぐなような気がしました。
帰り際、見送りに来てくれたシェフと会話しました。
「以前は良く来ていたんですけど、ブラッスリーになってからは一度も来ていなくて。でもあいかわらず料理がおいしくて、来て良かったです」
「そんなふうに言って頂けてうれしいです。最後だから料理は自由にやらせてくれって…。あ、実は私、明日で辞めることになりまして」
「ええっ!そうなんですか。今夜たまたま来て、ほんとうに良かった…。こういうのも偶然というか縁ですね」
というわけで、冒頭の第六感の話になったんですけど。
中田シェフは代々木近辺でこんどは自分でお店をオープンさせるそうで、現在物件を探している最中だそうです。
このシェフも、「鮨 太一」の石川太一さんみたいに、なんか応援したくなってしまうような、ステキな方なんですよね。
ご興味あるかた、ぼくといっしょに新店に行きましょう。
サーモンの瞬間燻製、ガチウマですよ。
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